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52号『シリーズ・歪んだ風景―セピア色の手帳 第十三回』 評

 投稿者:万理久利  投稿日:2018年 1月 6日(土)12時24分13秒
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   53号の評に入る前に、年末の慌ただしさで書き損じてしまったこの作品の感想です。
興味を引いた箇所を数点挙げてみました。

 建築家という職業につく著者の経験知識を盛り込んだこのシリーズでは、普段あまり目
にしない建築技術について触れることができて、過去の事件/事故と結びつけ「ああそう
いうことだったのか」と改めて気付かされることが多くあります。
 今回は建物を支える工事という基本中の基本である杭打ち技術について述べています
が、姉歯事件、横浜の「傾きマンション騒動」 や博多駅前の道路陥没事故のことを思い
出しました。そこに住む人々、道路を利用する人々だけでなく建設現場で働く人の命/安
全にも大きく関わってくることがよく分かります。施工側にっとても被害者にとってもと
てつもなく大きな経済的負担が生じます。自分が当事者にならないとなかなか関心がいか
ないところですが、こういうことを僅かでも知っているだけでも、ものの見方、ニュース
の見方が変わってくるような気がします。
 杭打ち工法の次はタイコン。初めて聞く名称ですが、以前仕事で行った荷揚げ船着き場
や工場でみかけたことのある大きな袋のことのようです。この袋に入った1トンもの砂糖
を洗浄乾燥する設備を考えろ、この課題に取り組んだ話が面白い。洗浄や乾燥の方法を考
えることまで建築家の仕事なのか、「そんなことはお前達が考えろ」とつい言ってしまい
そうです。反面知恵と工夫を発揮だせる面白い職業なのだとも思えます。
 要求される内容の深さだけでなく、自然環境の違いが建物の材質や構造に与える影響や、
近隣住民への影響についても常に考慮しなければならないわけで、建築家に要求されるア
ンテナの張り具合はとてつもなく広いようです。

 ここまでは建築にまつわることですが、作品のなかに挟み込まれた設計室長と主人公の
ありようが興味深い。大学教授の看板でスカウトされ、如何にも出世街道まっしぐらのカ
リスマ/エリート室長と、何事にも迎合しない一匹狼的主人公の対比がいい。対照的なこ
の二人が、5年の後、室長はさらなる上昇を目指し転職し、主人公は自由な場所を求めて
東京支社に移動する。果たしてどちらの生き方が幸せなのだろうか、幸福をつかめるのか、
などと想像をかきたてられる展開です。

 意味深なのは、著者が選んだ最後に掲載するホルヘ・ルイス・ボルヘスの詩「鏡に」で
す。著者がなぜこの詩を選んだのかは分かりませんが、この詩を読んで思い浮かべたこと
があります。
・正反対の二人ではあるが、室長は鏡にうつる主人公
・この作品は著者をうつす鏡
・この作品に限らず、人が書いたものは書いた人をうつす鏡
・人の目にうつる全ての世界は鏡にうつる世界   等々。

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